鹿児島大学リポジトリ コンテンツ7000件目記念インタビュー企画

鹿児島大学リポジトリの公開コンテンツ数がこのほど7000件を突破しました!
 ここまで育てて下さった先生方、学生の皆さん、職員の皆さん、利用して下さる皆さん、ありがとうございます。
 7000件目の登録コンテンツは、下記の論文でした:
 伊地知秀太・寺岡行雄「鹿児島県における木質チップ燃料の供給・利用実態とその課題」鹿児島大学農学部演習林研究報告第39号, p15-19, 2012
 
記念にご論文の著者の一人である寺岡行雄先生(農学部生物環境学科森林管理学 准教授)にインタビューを行いました。
 先生の熱意あふれるお話、必読です!

 

リポジトリのコンテンツ数が着実に増加しており、寺岡先生と伊地知さんとの共著論文が7000件目となりました。すでにリポジトリに登録されている先生の他のご論文についても、学内のみでなく学外からも多数のアクセスがあります。 

寺岡先生: リポジトリを通して、研究したことが外部の方にも見て頂けたり、引用して頂けるのは大変うれしいことです。リポジトリの仕組みができてよかったと思っています。また、(リポジトリの)利用者としての立場から見ても、従来の冊子体より早く目的の論文に辿りつけるなど重宝しています。

7000件目となったご論文も含めて、先生の研究テーマについて教えて頂けますか? 

寺岡先生: 現在研究室のテーマにしていることは、木質バイオマスのエネルギー利用、モウソウチク林、低コスト育林です。
 モウソウチクに関しては、鹿児島県はモウソクチク林の面積が国内で一番広く、歴史的にも島津の殿様が初めて中国から持ち込んだとする逸話もあるなど、たくさん利用されてきました。モウソウチクは、タケノコも大きくておいしいですし、資材としても農業資材・建築資材として便利に使われてきたのですが、手間がかかることから、高齢化した農山村では手入れがされず荒れてしまっている竹林が多くあります。それらを活用するべく、7年ほど前から、さつま町の竹林所有者の方のご協力を得て、(タケノコを採るような、本数をコントロールする伝統的竹林管理では手間がかかりますが)全て伐採した後、竹林がどのように再生していくのか、について試験を行っており、そのプロセスを「演習林研究報告」等で報告しているところです。
 バイオマスについては、10年ほど前から研究をしていて、特に木質系、森林資源を元にしたものを対象にしています。元々は森林資源管理を専門としています。木の量は、立方メートルつまり体積で量るのですが、それに比重をかけて単位変換するとバイオマスという重さで量れるものになり、さらにそれを燃やしたらどの位の熱量になるか、と単位変換するとエネルギーの話になります。このようにして、例えば鹿児島県で供給可能な量がどのくらいか、を提示することができます。先日鹿児島大学病院で導入された木質バイオマスボイラーでも、鹿児島大学の高隈演習林の間伐材からどの位のチップを供給できるかを試算し、燃料を一部供給しています。

ご論文によると、鹿児島県内でもすでに木質チップボイラーを導入している事業者がいるとのことですね。 

寺岡先生: 現在木質チップボイラーは県内の4箇所で導入されています(3箇所が大隅半島、1箇所が種子島)。今回の論文では、どういう燃料がどういう仕組みで供給されているのかを調査しました。これまではチップを燃料ではなく製紙原料として利用することが大半でしたが、その一部を燃料として利用しようという動きが出てきており、その動向を明らかにしたものです。さらに、チップは、製紙原料としては濡れていてもよいのですが、燃料としては乾いている必要があります、そのため、含水率を下げるために各事業者がどのような工夫をしているか、についても調査しました。

それらの事業者が木質チップボイラーを導入した背景について教えて頂けますか。 

寺岡先生: 今回の論文で調査した導入事業者の業種は温泉施設、福祉施設、養鰻施設ですが、まずコスト面の要因が挙げられます。重油代が以前は40円/l以下だったのがここ数年で倍ぐらいの価格まで高騰し、経営を圧迫する原因となっています。
 特に養鰻施設(鹿児島県は養殖ウナギ生産量が全国一)では、水温を常時約30度に保つ必要があり、加温のために相当量の燃料を必要とします。この養鰻施設では平成21年に木質チップボイラーを導入し、順調に運用されています。もうひとつ付加的なことですが、CO2排出量の削減が挙げられます。排出削減量を、認証を受けてクレジット化しています。金額的にはそれほど高くはなりませんが、社会的認知を得るという面からも大事なことだと思います。
 福祉施設の例では、給湯・空調用のエネルギー源を重油と電気からチップボイラーに替えたのですが、燃料代の削減、CO2排出量の削減とともに、地元の木材をなるべく使用したいとの目的があります。燃料代の削減も大きなメリットですが、価格が変動しないというのも大きなメリットで、実際今回の論文で調査した各事業者でも、ここ2~3年燃料代が固定しています。燃料代が上下せず前もって見込めるのは経営上の大きなメリットです。地元の木材使用については、伐採も、粉砕してチップ化するのも、地元の業者が行います。これはすなわち燃料代がすべて地元に落ちるということで、いわばエネルギーの地産地消と言え、大きな意義があります。逆に重油の場合、地元に落ちるお金は手数料くらいで残りは東京や海外などに流れていくわけです。つまり、同じ値段でも、地元に落ちるお金のことを考えると意味が違ってきます、その意味でも地域への貢献になると思います。
 エネルギーすべてをバイオマスエネルギーで置き換えられるわけではありませんが、置き換えられるところからやっていきましょうという意味で、この論文で事例紹介を行いました。大学病院の木質バイオマスボイラー導入は、実は薩摩半島での初の導入事例でもあり、波及効果として大きく期待しています。

今後木質バイオマスボイラーの導入が拡がっていった場合、安定的な燃料供給は可能なのでしょうか? 

寺岡先生: そこがネックの一つで、例えば、燃料としてのチップをどこで購入できるのか、ということも現在はっきりしていません。量に関しては、概算では、今の10倍でも問題なく供給できると考えています。また、供給体制づくりに関しては、今年度は協議会ができるなど行政側も本腰を入れ始めているので、動き出すのではないかと思います。

木質チップは乾燥が大事だとのことですね。 

寺岡先生: 湿ったチップでも燃えはするのですが、自身の水分蒸発にエネルギーを使うため、使える熱量が少なくなってしまいます。湿ったチップと、その半量の乾燥チップとでは、熱量として同じ意味を持っているんです。したがって、燃料としてのチップはいかに乾燥させるかが大事です。例えば福岡県では、山で伐採後、あるいは製材後などいろんな段階で乾燥させている工夫の事例があります。

木質バイオマスボイラーは日本の各地で導入が進んでいるのですか? 

寺岡先生: 各地で導入されています、東北・北海道で(寒くて熱需要が高いため)特に進んでいます。西日本でもここ数年で普及し始めています。

東日本大震災後、ますます導入が進んでいるのでしょうか? 

寺岡先生: そうあってほしいですね。例えば鹿児島県は、今後10年で木材生産量を倍増させる計画(*1)を持っていますが、木材生産量が倍増すると製材品とならないものも倍出てきますから、チップとなるものも倍出てきます。それらの行き先を確保しなければ、つまり確実に商品化し、値段が付いて、生産・販売されるようにしなければ、それらは無駄になってしまいます。それはまた出先の需要も作っていく必要があるということで、そういう意味でも普及に何らかの弾みがつけば、と思っています。

先生は持続可能な林業経営も研究テーマとされていますね。日本の森林活用についてどのようにお考えですか? 

寺岡先生: 日本は、森林資源(面積)は先進国の中でもトップクラスなのですが、使っている木材の1/4しか自給していないんです。資源があるのに使っていない。自給できる分はなるべく自給すべきだと思うのです。たくさん伐ったら無くなってしまうのでは、と思われるかもしれませんが、必要量をすべて国内で賄ってもお釣りがくるくらい成長しています、成長している分だけ伐っても自給可能です。

大手電力会社では、火力発電所で石炭に木質バイオマスを混ぜて燃やす「混燃」の形でバイオマスの活用を進めているようですが、燃料チップを国内では安定供給が難しいとして輸入する例も多いそうですね。(*2) 

寺岡先生: 先程の、日本で使っている木材の1/4しか自給していないことの最大の問題は、供給能力なんです。品物の発注量が多くなると単価が安くなるのが通常ですが、国内の木材に関しては、逆に高くなったりあるいは供給できない、となります。例えば住宅メーカーのようにたくさん発注したい業者さんは、確実に受注してくれて、また単価を安くしてくれる商社に発注をかけます。国内の林業は供給するパイプ、生産流通チャンネルが細く、整備があまりされていないんです。私の言う持続可能な森林経営というのは、保存のためのものを指しているのではなく、既存の人工的に育ててきた山のような、伐って使うべきところについて、伐って、使って、(次世代・次々世代が使えるように)植えて、育てて、というように循環的に生産していく形を作るべきだ、というものです。そのためには、供給のための一連の産業が保持されていなければなりませんが、残念ながらそれが弱体化して、その結果自給率が1/4と低下しているわけです。各地域にある森林資源を使って仕事を作り、雇用を生み出せば人は定住します、人が暮らさなければ地域の過疎化と都市部への人口一極集中が進むばかりです、それでいいとは思えません。日本の多くの地域の発展のために、林業や森林資源をもっと利用してほしいし、そのひとつとしてエネルギー利用がある、と考えています。

この論文をどんな方に読んで欲しいですか? 

寺岡先生: 鹿児島県における事例報告なので、県内の木質チップボイラーの導入を検討している方、木質チップ燃料の供給を考えている方にぜひ読んで欲しいですし、さらには、全国の木質バイオマス研究者の方に鹿児島の事例を知って欲しいと思います。(リポジトリの)自分の論文の利用統計を初めて見ましたが、学外の方からも多く読まれているんですね。最近は学外の方とお会いしても、このようなリポジトリなり研究者総覧なりで、自分がどんな研究をしているか事前に調べてこられるようです。

一般の方にも研究成果が届きやすくなっているんですね。 

寺岡先生: (高価な)電子ジャーナルはなかなか一般の方は読めないですから、大学のリポジトリが果たす役割は大きいと思います。またそこから、次の外部との共同研究やコネクション形成にもつながります。 大学の研究者の多くは学術雑誌を重要視していると思いますが、学内紀要にも例えば大学院生の研究成果をきちんと形にするなどの一定の役割があると考えています。

註 
*2 「明暗分けるバイオマス」日経エコロジー2011年4月号


インタビューを終えて(担当者から) 
 これからの循環型環境社会にとって非常に大きな存在である木質バイオマス。先生のわかりやすく熱意あるお話にインタビュアーも聞き入りました。誰もがアクセスできるリポジトリがその拡大のなんらかの一助となれば、担当者にとってもこんなに嬉しいことはありません。これからもリポジトリの一層の充実を目指してがんばります。
 ※この記事は2012年4月19日(木)に行ったインタビューを元に構成しました。