OPEN ACCESS WEEK 2011 インタビュー企画~理系編

インタビューに応えてくださったのは、古澤仁先生(大学院理工学研究科(理学系)数理情報科学専攻准教授)、津曲紀宏さん(D3(大学院理工学研究科(理学系)システム情報科学専攻))。インタビューはまず学位論文の登録についての話題からスタート。

オープンアクセスと学位論文 

先日古澤先生からは、ご指導された修士論文をリポジトリにご提供頂きました。本学リポジトリでは学位論文の登録がまだ数少ないのですが、ご提供頂いた経緯を伺えますか? 

古澤先生: 学生が一生懸命まとめた修士論文を、自分が大事に持っていても仕方がありません。論文は人に読んでもらってこそのものです。リポジトリは公開する場所の選択肢の一つとして捉えていましたが、修士論文は長すぎるのでまるまるどこかの雑誌に掲載することは困難ですし、その他にも考慮の結果、一番公開する場所として適当なのがリポジトリでした。論文は基本的にはオープンにしたいと考えていますし、出来のよい論文はなおさら公開した方がよいと考えています。

理工系のほかの分野も修士論文について同じような考えなのでしょうか? 

古澤先生: 修士論文をリポジトリで公開できるということは皆さんご存じだと思います。ただ、surveyの形を取っている論文があったりして、著作権上の問題がないことを確認するのは大変困難ですので、(公開はせず)自分の手元に保存しておこうという判断をされることが多かったのではないかと推察しています。実際,私の場合も自分が指導した学生すべての修士論文をリポジトリに提供したわけではありません。

先日制定した「鹿児島大学リポジトリに関する要項」では、博士論文は原則リポジトリ登録を義務化したのですが、修士論文については著者の許諾制を取っています。論文に著作権上の問題がないかどうか確認する必要があるという問題や、質の問題のことを考えると、修士論文の著者から登録の希望があっても、さらに指導教員がその論文をリポジトリ登録してよいかどうかの判断をした方がよいとお考えですか? 

古澤先生: (チェック機能は)必要だと思います。剽窃についての理解が浅い学生も残念ながらいますし。

文献検索と入手について 

文献検索にはどのようなツールを使用されていますか? 

古澤先生・津曲さん: 特に決まっていません。文献を読みたい著者の名前やタイトルを検索キーにGoogleなどの汎用的な検索エンジンで検索を行うことがほとんどです。これで本文まで手に入ることが多いです。

(文献データベースを使うことなく)Googleでの検索でほぼ事足りているのでしょうか? 

古澤先生: 査読の際にこの文献を参照すべきという指摘されることはありますが、ほぼ事足りています。おそらく自分の分野はなんでもオープンにしている人が多いので(インターネットが出だした頃にすでにそれに精通していたような人たちです)、その影響はあるでしょう。特殊な分野かもしれません。数学分野だとその分野に特化した文献データベースを使う必要もあると思います。

使うのはGoogleですか?Google Scholarですか? 

古澤先生・津曲さん: 普通のGoogleです。

Google Scholarを使われたことはありますか? 

津曲さん: 使ってみたことはありますが、さほどメリットを感じませんでした。

古澤先生・津曲さん: Googleはもちろんノイズもありますが、アバウトに探すことはあまりなく、例えば著者のフルネームなどピンポイントで検索しています。

MathSciNetを使われることはありますか? 

古澤先生: 自分の分野は境界領域なので、数学分野に特化したMathSciNetでは漏れがあり、Googleなどの汎用的な検索エンジンの方が網羅性に優れています。

オンラインで本文まで入手できる確率はどの位でしょうか? 

古澤先生: 電子ジャーナルを含めて6割以上ではないでしょうか。しかしそれでも入手できない場合は、著者本人にコンタクトを取ることもあります。これには、(論文で)わからなかった部分を尋ねたりもできるメリットもあります。

そのような研究者同士のネットワークは強いのでしょうか? 

古澤先生: 分野によると思いますが、自分の分野は比較的強いと思います。自分の属する研究分野では実験系のように秘密にしておかなければならないデータなどはほとんどないですし、論文に興味があると言われていやな思いをする人はいないと思います。

津曲さんは文献をどのように入手されていますか? 

津曲さん: 図書館の複写物取り寄せサービスはあまり利用していません。(研究者同士のネットワークによって)欲しい文献はほぼ入手できています。

鹿児島大学で入手できない文献(電子ジャーナル)は多いですか? 

古澤先生: 自分は数学と情報の境界領域を研究しているのですが、鹿児島大学ではマイノリティということもあり、入手できない文献(電子ジャーナル)は多いですね。

(オンラインでの文献入手に関しては、有料の電子ジャーナル、リポジトリ(例:日本の学術機関リポジトリに蓄積された学術情報を横断的に検索できるJAIRO、鹿児島大学リポジトリ)のようなオープンアクセス文献、等入手経路は様々存在していますが)津曲さんはリポジトリをご存知でしたか?学科でのリポジトリの認知度はいかがでしょうか? 

津曲さん: 自分は知っていました。学生はあまり知らないと思います。

オンラインの文献はどのようなサイトで入手されていますか? 

古澤先生: 個人のサイトにプレプリントが載っていることが多いですね。これらが著作権の問題を確認した上で掲載しているのかどうかまでは私には分からないのですが。

オンラインで入手できない文献をどのように位置付けていますか? 

古澤先生: 査読の際に参照するよう指摘されるなどどうしても入手する必要があれば図書館等をとおして入手しますが、比率は高くありません。自分の分野では個人それぞれが論文ファイルをインターネット上にアップロードしていることも多いですから。

研究成果への反応・評価について 

投稿誌は決まっていますか?論文が掲載されて嬉しいジャーナルはありますか? 

古澤先生: 特には決まっていませんがいくつかに限られています。もう少しいろんな雑誌に出してもよいかとは思っていますが。論文の出来で投稿誌を決めています。論文が掲載されて嬉しいジャーナルというのは特にはありません。

論文への反応は引用のほかにはどのように知るのでしょうか? 

古澤先生: 論文を出版する前に、学会で話すことが多いのでそこでの反応を重視しています。論文はまとめのような位置づけで、それよりも、面と向かっての反応をもらうProceedingsに出すときの方が緊張します。また、査読を受ける際のレポートも(反応として)重視しています。

(一口にオープンアクセスと言っても)研究成果をただ公開するのではなく、査読を受けるなり評価を受けていることはやはり必要でしょうか? 

古澤先生: 個人的にはわかったことがすぐオープンにできてもよいと思いますが、そのようなことだけを続けていても他者から研究業績としては認められないでしょう。やはり商業誌に投稿せざるを得ません。査読の有無はやはり大きいです。

(本学のリポジトリでは紀要論文がかなりの比率を占めているのですが)学術雑誌と紀要とどのように区別されていますか? 

津曲さん: (学術誌に)リジェクトされた投稿論文について、査読報告書のとおり書き換える時間的余裕がなかったので紀要に掲載したことがあります。

古澤先生:先日紀要用の論文を書きましたが、新規の結果ではなく、勉強したことをきれいにまとめたものです。紀要論文は勉強するためのものとして使えるのではないでしょうか。また、学術誌論文から参照されている紀要論文はもちろん読みます。紀要は組織のアクティヴィティを示すものとしての意味合いもあるのではないでしょうか。

人文系にとっては論文を発表する貴重な場でもありますね。 

研究成果のアーカイブについて 

古澤先生: 学科の先生方はリポジトリについてご存知ではいるのですが、たとえば数学分野ではその分野のアーカイブスがあるので、リポジトリをあまり必要とは考えていないようです。ただ、このアーカイブスに日本語の修士論文は掲載できないので、リポジトリは意義があると考えています。日本語文献を掲載できるのは強みだと思います。

例に挙がった数学分野では、誰でも投稿でき、査読もなく、無料で公開されているプレプリントアーカイブスで充足しているということでしょうか。 

古澤先生: 出版されてしまったらそれで終わりで、出版後はリポジトリへの投稿などは行わないのではないでしょうか。また、プレプリントを投稿する理由の一つは、引用だと思います。まとまった論文を書こうとするとき、証明すべてを書くのではなく、個々の細かい証明はアーカイブス中の自分の論文を参照してもらうようにするのです。また、誰かが興味を持ってくれて読んでくれることを期待して投稿する場合も多いです。数学分野では新しい成果がプレプリントで発表されることが多いですね。

(リポジトリをもっと根付かせたいと考えているのですが)例えばそのようなアーカイブスサイトとリポジトリとのリンクなど、リポジトリと関連付けたらいいのではというサイトやシステムはありますか? 

古澤先生: 研究者総覧(教員の業績データベース)からリポジトリへリンクがはれるとよいと思います。

研究者総覧とリポジトリとの連携については現在検討中で、研究者総覧のシステムに入力する際に著者最終稿のファイルをアップロードできるようにしてリポジトリに登録し、書誌情報画面から出版社サイトへもリンクをはる、といったことが考えられます。 

古澤先生: 個人のサイトでも、著者最終稿が多く掲載されている方がアクセス数は多いでしょうね。ただ教員の手間が増えるのは困りますが。

先生は著者最終稿のファイルは保存されていますか? 

古澤先生: 保存しています。

どのようなタイミング・方法でファイルを頂くのが一番研究者の負担にならないでしょうか? 

古澤先生: どうやっても手間はかかるものです。習慣づけるしかないのではないでしょうか。習慣づけが難しかったら、例えば、論文を投稿するときは最終稿を必ずここにアップロードし、しない場合は出版できない、などといった手続きを決めてしまうことが効果的だと思います。強制力がないと全員分を捕捉するのは難しいでしょう。かと言って、強制的な手続きが大学に馴染むかどうかは分かりません。

一定の強制力が必要ということですね。 

古澤先生: 業績管理に関しては、前の職場では、職場が管理するデータベースを利用していました。成果発表する為には事前に成果発表申請することが義務付けられていたからです。不自由に感じることもありましたけど。

研究者総覧への入力率も課題だと思いますが、その要項を改正するという話も聞いています。なお、研究者総覧では大学院生の業績は捕捉していないのですが、津曲さんは自分の研究成果をどのように管理・保存されていますか? 

津曲さん: 自分のPCの中にローカルでファイル保存しています。業績リストも同様です。

個人それぞれが論文ファイルをインターネット上にアップロードしているというお話がありましたが、どこかに集積して保存することについてはどのようにお考えですか? 

古澤先生: 多くの研究者が集まるとひとりひとりが埋もれてしまう恐れがあります。自分のサイトだと自分のものだと一目で分かります。

自分のサイトにファイルをアップロードする方法だと、何らかの事情でサイトを管理できなくなる事態が出てくる可能性もありますが、そのことはみなさん想定されているのでしょうか?例えばリポジトリなら大学が責任を持って長期保存できるのですが。 

古澤先生: 先日リポジトリに登録した修士論文に関しては、自分のページにアップロードするのでもよかったのですが、例えば自分の所属機関が将来変わるかわかりませんし、一番安定しているリポジトリでの公開がふさわしいと考えてリポジトリにした経緯があります。自分の論文だったら不安定であろうと手間のかからない自分のサイトでもかまいませんが、学生の論文はきちんと安定したところに、と思い、ひと手間かけてリポジトリに登録しました。また、私の場合、修士論文は学部の4年生でも頑張れば読めるように、博士論文は修士の学生でも頑張れば読めるように、ということも考慮しつつ書いてもらっています。ですので、学位論文は、学術的な価値もさることながら教育用の資料としても有用だと思っています。


参考 
お二人に関連するリポジトリ登録論文:
 緩クリーニ代数の関係モデル / 津曲紀宏(http://id.nii.ac.jp/1466/00007500/) ※古澤先生ご指導の修士論文
 二項多重関係の反射的推移的閉包の構成 / 津曲紀宏, 西澤弘毅, 古澤仁(http://id.nii.ac.jp/1466/00007320/
その他の古澤先生ご指導の修士論文:
 単口木オートマトンと正規表現 / 永山和彦(http://id.nii.ac.jp/1466/00002058/
 ∗-連続なべき等左半環のイデアル完備化について / 三田文也(http://id.nii.ac.jp/1466/00007499/
 有理数の数え上げと減少型連分数について / 有満光崇 (http://id.nii.ac.jp/1466/00002345/)
古澤仁先生のHP
http://www.sci.kagoshima-u.ac.jp/~furusawa/jindex.html




インタビューを終えて 

 オープンアクセスについてのみならず、研究情報の収集や、研究成果の発表・発信等、研究活動全般についてもお話を頂きました。安定性の点でリポジトリへの信頼を頂いていることは励みになります。今後のリポジトリの展開を考える上でとても貴重なインタビューとなりました。ありがとうございました。
 ※この記事は2011年10月11日(火)に行ったインタビューを元に構成しました。
 

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